業種・背景

本事例の導入先は、各種化学製品を製造する化学メーカー様です。同社では、製造プロセスのさまざまな工程において窒素ガスを使用しています。窒素は酸化防止や不活性雰囲気の維持、製品の品質保持などに欠かせないユーティリティガスです。

化学プラントにおける窒素ガスは、原料の酸化劣化を防ぐためのシールガスとして、あるいは反応容器内の置換ガスとして大量に消費されます。そのため、窒素供給系統の健全性は製造品質に直結する重要な管理項目です。

同社のプラントでは、長年の操業を通じて配管やバルブ、継手などの設備が経年劣化しており、窒素ガスの微量な漏洩が散発的に報告されていました。しかし、窒素ガスは無色・無臭であるため、漏れの発見が非常に難しく、対応が後手に回りがちでした。

課題

現場の保全担当者は、流量計付近から窒素ガスが漏れていることを「シュー」という微かな音で察知していました。耳を澄ませると確かに漏洩音が聞こえるものの、その正確な発生箇所を特定することは極めて困難でした。

最大の障壁は、漏洩が疑われるエリアの配管が密集していたことです。複数の配管が並走し、継手やバルブが近接して配置された環境では、音の反射や減衰により、漏れ音の方向性を人間の聴覚だけで正確に判断することはほぼ不可能でした。

さらに、漏洩量自体が微量であったため、流量の変化も極めて小さく、流量計のデータからは漏洩箇所を絞り込むことができませんでした。配管系統全体の圧力降下テストを行うにも、製造ラインの停止が必要となるため、容易に実施できるものではありませんでした。

人間の聴覚には物理的な限界があります。特に微量のガス漏れが発生する超音波帯域の音は、耳で検知できる周波数範囲を超えている場合が多く、聞こえる音だけを頼りにした探索では発見できない漏洩が数多く存在していたと考えられます。従来の検査方法では、問題の存在は認識できても、解決に至るための正確な情報が得られないというジレンマに直面していました。

導入製品

この課題を解決するために導入されたのが、音響カメラ「アルゴリーク(Algo Leak)AL64」です。アルゴリークは、64個のマイクロフォンアレイを搭載した音響可視化装置で、音源の位置をリアルタイムでカメラ映像上にヒートマップとして表示することができます。

操作方法は非常にシンプルです。カメラを対象エリアに向けてスキャンするだけで、漏洩音の発生源がディスプレイ上にカラーマッピングされます。配管が密集した環境であっても、どの継手やバルブから音が発生しているかを映像上で直感的に確認できます。

アルゴリークの特長は、人間の耳では捉えられない超音波帯域の音も検出できる点にあります。微量なガス漏れが発生する際に放射される超音波成分を高感度に捕捉し、その発生位置を数センチ単位の精度で特定します。周囲の騒音環境下でも、周波数フィルタリング機能により漏洩音だけを抽出して可視化することが可能です。

計測データは静止画・動画として記録できるため、報告書作成や修繕依頼時のエビデンスとしても活用できます。現場での迅速な判断と、管理部門への正確な情報共有を同時に実現するツールです。

導入効果

アルゴリークによる調査の結果、0.4MPaの窒素ガスが内部チューブのシールテープ接合部から漏洩していることが判明しました。密集配管の中でも、漏洩箇所をピンポイントで特定できたことは、従来の検査方法では到底不可能だった成果です。

漏洩箇所が正確に特定されたことで、修繕作業も的確かつ迅速に実施できました。シールテープの巻き直しという比較的簡易な補修で漏れを完全に止めることができ、大規模な配管工事は不要でした。早期段階での発見であったため、漏洩が拡大する前に対処でき、損失を最小限に抑えることができました。

この事例を通じて、通常の点検では見落とされがちな極めて微細な漏れも、アルゴリークを使えば確実に検出できることが実証されました。目視や聴覚に頼った従来型の巡回点検との差は歴然であり、設備保全の精度が飛躍的に向上しました。

同社では、この成功事例を受けて、プラント全体を対象とした定期的なアルゴリーク調査を計画しています。窒素ガスに限らず、圧縮空気やその他のユーティリティガスの漏洩調査にも活用を広げることで、工場全体のエネルギー効率改善を推進していく方針です。

  • 密集配管内の微量な窒素ガス漏れをピンポイントで特定
  • シールテープ接合部からの漏洩を早期段階で発見
  • 簡易補修で対処可能な段階での修繕を実現
  • 従来の聴覚検査では不可能だった超音波帯域の漏洩を検出
  • プラント全体の定期調査への展開を計画中